Points to Consider When Purchasing a Natural Whetstone

天然砥石を購入する際の注意点

信頼できるお店で購入すること

近年、某オークションサイトやフリマアプリなどで、偽物の天然砥石が数多く出回っています。
中には、ただのレンガに「正本山」や「中山」といった印が押されているだけのものも存在し、非常に残念な現状です。

価格が手頃であるため「掘り出し物だ」と思い込み、衝動的に購入してしまう方も少なくありません。
しかし、以前の記事でも触れたように、天然砥石は一般の方には真贋の判別が極めて難しいため、
必ず信頼できる専門店に足を運んで購入されることを強くおすすめします。

また、オンラインで購入する場合も、名の通った専門店であれば事前に相談できることが多く、
「高額で購入したのに想像と違っていた」というリスクを最小限に抑えることができます。
これは天然砥石に限らず、庖丁などの高級工芸品にも共通する考え方です。

まれに、ネットで購入したものを庖丁専門店に持ち込み、相談される方も見受けられますが、
それは本来、筋の通らない行為だと感じます。
専門家から購入するということは、彼らの知識・審美眼・信頼を買うということ。
価格が高く設定されているのは、その価値が正当に反映されているからです。

それでもなお価格を抑えたい場合は、自己責任で購入するという意識を持ちましょう。

同じものは二つと存在しない

天然砥石の魅力であり、同時に難しさでもあるのは、
同じ産地・同じ地層から採掘されたものであっても、全く同じものは存在しないという点です。

天然の名の通り、ひとつひとつが異なる個性を持ちます。
同系統であれば特徴は似ていますが、研ぎ心地や反応は微妙に異なります。

もし人造砥石を「素直な子」と例えるなら、天然砥石は「気まぐれで個性的な子」。
番手の規格や均一な製造工程がないため、売り手にとっても買い手にとっても極めて難しい商品といえます。

気に入って使っていた砥石でも、庖丁の材質を変えた途端に研ぎ味が合わなくなったり、
使用中に思わぬ層が現れたりと、まさに一期一会の出会いを楽しむ道具でもあります。

砥石によって硬さや研磨力も異なり、
糸刃や裏押しを得意とするもの、切り刃を整えるのに適したもの、美しく鏡面に仕上げるのが得意なものなど、
それぞれが異なる個性を持っています。

「天然砥石を使うと上達が早い」と言う方もいますが、
これは本当に研ぎを愛し、砥石の個性を味わいたいという探究心の強い方にこそ向いています。
多くの人にとっては、どんな品質の石が当たるかわからない高価な買い物になるでしょう。

ですから、「絶対に失敗したくない」という方は、試し研ぎができるお店で購入するのがおすすめです。
逆に、天然砥石の個性を楽しみたい方は、ぜひ積極的にさまざまな石を試してみてください。

 

保管環境にも気を配る

天然砥石は、人造砥石と比べて環境変化に敏感です。
特に冬場は、使用後によく乾燥させてから保管しなければなりません。

水分が残ったまま氷点下を下回ると、内部の水分が膨張し、砥石が割れる危険性があります。
また、正しく保存していても突然ヒビが入ることがあり、
場合によっては真っ二つに割れてしまうこともあります。

これを防ぐ方法の一つとして、側面や底面をカシュ―で養生するという手段があります。
庖丁に当たらない面を塗料で固めることで、水の吸収を防ぎ、強度を高めることができます。
高価な砥石ほど、手間を惜しまず丁寧に扱うことをおすすめします。

なぜ天然砥石が選ばれるのか

ここまで数々のデメリットを挙げてきましたが、
それでも天然砥石がこれほどまでに愛される理由は明確です。

それは、人造砥石では決して再現できない「切れ味」と「美しさ」があるからです。

天然砥石に含まれる研磨成分は、人工の研磨剤よりも柔らかく、
粒子の形状が金属組織に深い傷をつけにくいため、
刃先をより繊細で滑らかに整えることができます。

その結果、食材の細胞を壊さずに美しく切り分けることが可能になります。

また、もう一つの魅力はその研ぎ上がりの美しさです。
柔らかく絶妙な硬度を持つ研磨粒子が、金属の地金と刃金を異なる表情で仕上げ、
刃境がくっきりと浮かび上がります。

これは、本焼き庖丁や日本刀の研磨にも共通する技術であり、
硬い部分と柔らかい部分の差が刃文や地肌模様として現れるのです。
まさに、人の手と自然が織りなす芸術的な仕上がりといえるでしょう。

天然砥石は確かに扱いが難しく、万人向けではありません。
しかし、道具と真摯に向き合い、手をかけるほどに応えてくれるその奥深さは、
まさに日本の美意識と職人精神の象徴です。

一度その魅力に触れたなら、あなたにとって“ただの石”ではなく、
一生を共にする相棒となることでしょう。

ブログに戻る