T3は、超微細な炭化物を特徴とするステンレス鋼です。
この鋼材は、月山義高刃物店を営む藤原将志氏が4年もの歳月をかけて研究・開発し、さらに私たちとタッグを組んで約1年半にわたり改良を重ね、ついに試作段階まで到達した新しいステンレス合金鋼です。
一般的なステンレス鋼は炭素鋼に比べて炭化物が大きく、硬度が高いため、
切れ味の鋭さや研ぎ直しのしやすさの面で課題がありました。
しかしT3は、ステンレス合金鋼でありながら炭化物の粒子が極めて細かく、顕微鏡で観察しても、刃物用ステンレス鋼の中では炭素鋼(ハガネ)に最も近い組織を持つことが確認されています。
以下の写真は銀紙3号とT3の組織です。
白い点が炭化物ですが、その粒子の大きさに圧倒的な差があることがはっきりと分かります。

銀紙三号

T3
T3の大きなメリットは、**ステンレス鋼としての優れた耐腐食性(錆びにくさ)**です。
日々のメンテナンスが容易で、特にプロの現場で重宝されています。
一方、従来のステンレス鋼には
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切れ味の持続性が低い
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研ぎ直しが難しい
というデメリットがありました。
しかしT3は炭化物が極めて微細なため、
研ぎやすさが飛躍的に向上し、切れ味も炭素鋼に匹敵するレベルまで仕上げることができます。
炭化物が微細であるほど、刃の仕上げの幅は大きく広がります。
イメージとしては、大きな石が混じったレンガと、細かい砂が均一に混ざったレンガの差です。
炭化物が大きいと、どれだけ細かい砥石を使っても、それ以上細かい刃先を作ることは困難です。
しかしT3ほど微細であれば、
粗い刃から非常に細かい刃まで自在に調整でき、用途に応じて理想的な切れ味を引き出すことが可能になります。
つまりT3は、これまでの「数値」「HRC硬度」「データ性能」を基準とした鋼材開発とは一線を画し、
一流料理人のフィードバックを徹底的に反映し、“使い手が本当に扱いやすいと感じる包丁” を目指して到達した、新しいステンレス合金鋼なのです。